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政府の「クリーンエネルギー戦略(中間整理)」の考察

2022年 5月 18日

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桝本量平

政府は5月13日、「クリーンエネルギー戦略(中間整理)」を公表したので、考察したい。
第一に、「クリーンエネルギー戦略」とは何か?である。 府は昨年までに、➀「エネルギー基本計画」により2030年のエネルギーミックス(各エネルギーの構成比目標等)を定め、➁「グリーン成長戦略」により2050年カーボンニュートラルに向けた (洋上風力など)分野別工程表を示していた。 これに対して「クリーンエネルギー戦略」は“(2030年や2050年などの)「点」ではなく「線」で実現可能なパスを描く”、および“需要サイドのエネルギー戦略の方策を整理する”ものとされ、 1月の同初会合では岸田首相は「クリーンエネルギー戦略においては、どのような分野で、いつまでに、どういう仕掛けで、どれくらいの投資を引き出すのか。経済社会変革の道筋の全体像をお示ししたい」と表明していた。

第二に、これに対して、今回の“中間整理”では、具体的に何が決まったか?である。 “今後、脱炭素関連投資として年間17兆円、今後10年間で約150兆円が最低限必要”と試算が示されたことは進展ではあるが(参考までに日本のGDPは約550兆円で、うち個人消費が約300兆円、民間投資が約90兆円、公共投資が約30兆円など)、 そのための“予算措置”や“規制・制度的措置”は「年末に向け更なる具体化を図る」とされ、具体的な決定事項の進展は殆どなかった、というのが筆者の印象である。 特に、予算措置に関しては、「前例のない規模・期間で政府として支援措置を示し、民間部門が予見性を持って投資を判断できる仕組みを講じることが“不可欠“」とまで記載されながらも、具体的には決まっていない。 なお、ウクライナ危機・電力需給ひっ迫を踏まえ、LNGを含めエネルギー安全保障の重要性が再確認され、原子力などを最大限活用するとされた。これらを評価する報道も見られるものの、具体的な決定事項の進展は殆どない印象であり、年内にも発表予定の「新LNG戦略」などによる具体策が待たれる。

第三に、クリーンエネルギー戦略の今後の展望はどうか?である。 日経新聞報道によると、この年間17兆円(今後10年間で約150兆円)の脱炭素関連投資の一部として、「政府は10年間で20兆円を新設の基金を通じて投資するが、 その財源は赤字国債など国の直接支出は避け、新たな税収や電気料金を用いる」としている。 やはり、政府による予算措置も、最終的には国民が負担せざるをえないし、残る民間投資(150-20=130兆円)部分も、大部分は国民の負担となるだろう。 政府は家庭の負担増を試算・開示はしていないが、仮に、年17兆円全てが国民に転嫁されれば(人口約1億人で割って、仮に一家庭3人とすると)、世帯当たり月約4万円の負担増となる(仮にこれを全て電気料金という形で支払うとしたら、電気料金は、現在の月1万円程度から、月3~5万円に増えるイメージだろうか)。 やはり、「どれだけの額の国民負担をかけてまで、どこまでの脱炭素施策を実行していかなければならないか」を政府は国民に説明していくしかない。また、これだけの負担増となるのであれば、その投資の出来るだけ多くの部分が、国内での雇用や経済循環につながるようにしたいところであり、 そのことはクリーンエネルギー戦略の議論の中でも取り上げられているが、当然ながら、その答えは簡単ではない。

(以上)

免責事項:本稿は著者の個人的見解であり株式会社INPEXソリューションズの見解ではありません。