知見/レポート

TOP > 知見/レポート > 【イスラエル・UAE 国交正常化合意の陰の中東②】- イラン核合意:スナップバックを巡る攻防 -

【イスラエル・UAE 国交正常化合意の陰の中東②】
- イラン核合意:スナップバックを巡る攻防 -

2020年 9月 8日

PDF版 PDFマーク


企画調査部 研究主幹:布施 哲史



2015 年に締結されたイラン核合意=JCPOAは、署名国である米国のトランプ政権が2018 年に一方的に離脱してイランへの経済制裁を再開したことで、 米国を除く署名各国と国連が合意を維持しているとはいえ、崩壊の危機にある。

核合意の中でイランに課されていた武器禁輸は、合意5年後に解除されることになっており、 この期日が2020年10月18日に到来する。 米国はこの解除を阻止し、イランへの長期の武器禁輸を課すために、国連安保理に「イランに対する武器禁輸措置の延長に関する決議案」を提出し、 この決議案への採決が 8月14日に行われた。 その結果は、安保理理事国15か国中、賛成 2、反対 2、棄権 11 で、可決のために必要な9票を得られず否決された。(賛成は米国の他にはドミニカのみ。反対はロシア、中国)



(米ニューヨークの国連本部で行われる安全保障理事会の会議 2020年2月26日撮影、資料写真:Johannes EISELE / AFP)



この結果を受けて、米国は、JCPOA で規定される、イランによる JCPOA の不履行を理由とした制裁の再発動メカニズム=スナップバック、を適用するとし、8月20日に、 今月の国連安保理議長国のインドネシアに対し、「米国はスナップバックを発動する」との通告を行った。 「JCPOA から離脱しても米国はスナップバック発動の権利を有する」とする「法的文書」も併せて提出した。

(画像: NTD)



JCPOA の規定では、スナップバックが発動された場合、30日以内に「制裁解除の継続」を定める新たな決議が安保理で採択されない限り、国連制裁は全て復活するとされている。 たとえ継続決議案が提出されたとしても、米国の拒否権により継続決議案は否決されるので、国連制裁は復活する。

2 週間前に武器禁輸措置延長決議案を否決している安保理理事国の多くは、米国の2018年の核合意からの離脱により、スナップバック発動の権利をなくしたと考えており、 米国の通知を受けて、安保理理事国の15カ国中13カ国が米国の主張に反対を表明する書簡を議長国宛てに送っていた。 このため25日、今月の議長国インドネシアのジャニ国連大使はスナップバックに向けた手続きについて、「安保理が一致していないため、議長はさらなる行動を取る立場にない」と述べ、手続きを進めない考えを表明した。



(資料: NHK、オンラインによる公開会合で対イラン武器禁輸措置の延長案を否決した国連安全保障理事会=国連提供)



また一方この8月25日は、IAEA のグロッシ事務局長がテヘランを訪れ、イラン原子力庁のサレヒ長官と、また翌26日にはロウハニ大統領と会談をした。 訪問の目的は、秘密裏に核関連活動が行われていた疑い(イスラエルと米国による疑義)が持たれているイラン国内の2施設へ、IAEA の査察を受け入れることを要請するものであった。 これまでイラン政府は、「イスラエルと米国によるでっち上げ」として、査察を拒否していたが、 今回の協議で 2 施設について IAEA の査察を受け入れることで合意したと発表した。 同時に IAEA は、これらの施設以外へのアクセスは要求しないとしたとも発表された。

(グロッシ IAEA 事務局長 写真:THX/TTXVN)



(画像: TBS JNN ニュース)



イラン政府は、グロッシ事務局長の訪問は、米国の動き(=スナップバック発動)とは関係ないとしているが、 これまで拒否してきた査察を受け入れることで、国際社会の批判をかわし、安保理でのスナップバック発動の取り扱いを有利に進めよう(=米国の発動を受理しない) のねらいがあるものとみられる。 イランの「忍耐」対処の一つだが、「30 日期間=9月19日」まではまだ 3 週間余ある。 安保理においてこのままの状態が続き、9月19日にどのような状況が生じているか、また安保理対応に関係なく米国は9月19日に「スナップバックとなった」と宣言するのだろうか。 イスラエルと UAEの国交正常化合意と言うビッグニュースの陰で進んでいるこの動きを、注視する必要がある。

免責事項:本稿は著者の個人的見解でありインペックスソリューションズ株式会社の見解ではありません。



(参考資料)

  • ・New York Times、2020年8月14日、U.N. Security Council Pejects U.S. Proposal to Extend Arms Embargo on Iran
  • ・中東調査会 中東かわら版 No. 59、青木 健太、2020 年 8 月 17 日、イラン:国連安保理が武器禁輸延長決議案を否決
  • ・The Wall Street Journal、2020年8月19日、U.S. Risks Diplomatic Isolation With Bid to Reimpose U.N. Sanctions on Iran
  • ・日本エネルギー経済研究所中東研究センター 中東研ニューズリポート、坂梨祥、2020年8月21日、イラン:米国はスナップバックを発動
  • ・Associated Press、2020年8月21日、US dismisses opposition to restoring UN sanctions on Iran
  • ・日本経済新聞、2020年8月26日、イラン制裁復活に否定的 安保理議長国、米主張の手続き進めず
  • ・時事通信、2020年8月26日、安保理議長、手続き進めず 米要請の対イラン制裁復活
  • ・中東調査会 中東かわら版 No. 66、青木 健太、2020年8月26日、イラン:グロッシ IAEA 事務局長によるテヘラン訪問の成果と課題
  • ・ロイター、2020 年 8 月 27 日、イラン、IAEAの核査察に合意 大統領「協力継続の用意」
  • ・The Wall Street Journal、2020年8月27日、Iran Grants U.N. Watchdog Access to Suspected Nuclear Sites
  • ・NHK、2020年8月27日、イラン IAEA査察受け入れで合意